1972年の初めての南極偵察日記は、全文活字化されている。雑誌「コヨーテ」の2009年6月発行、No.37に掲載された。1月5日から2月2日までの日付をもつこの日記は、30歳の植村の生き生きした心の弾みを伝えているが、格別に印象深いくだりを少しだけ拾い出してみよう。

 まず、先に2行だけ書き出した所がふくまれている、ベルグラーノ基地到着の日、1月14日の記述。

《ちょっとのぞいてみるかと起き上がってベッドから下り、窓から顔を出して船先の方をみると、白い起伏のある線が青い空と接している。流氷の水平線ではない。
 南極大陸だ。氷に覆われた南極大陸だ。確かに陸地の氷だ。太陽がさんさん輝いていてギラギラ光っている。
 生まれて初めてみる南極大陸だ。いや俺はやってきた、遂にやってきた。神は私に南極の道を開けてくれたのだ。もう俺の心は宙に浮いたように、顔のしまりがなくなってしまった。ねむいどころではない。大陸だ。マッキンリー登頂以来、この南極にかけてきたのだ。何一つ疑う心なくして。
 私はズボンとシャツをひっかけ、羽毛服を着て、部屋の外にとび出し、操縦室に上った。そして太陽にキラキラ光る方向に双眼鏡をすえてみると、見える、見える。波のない海面に落ち込んだ氷は次第に高くなって、ゆるやかな地平線をつくっている。
 太陽はまさに今日初めて南極に入らんとしている私のために、さんさんと照ってくれているかのように、雲をはらいのけ、空は一面、濃紺の海をつくっている。》

 なんだか、一緒になって喜びたいような、卒直このうえない記述である。

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