第11章 南極の夢 前編

 私自身が植村の口から南極への夢を聞いたのは、70年の9月末、マッキンリー登頂後に帰国した植村が、東京の仙川の建設現場でアルバイトをしていたときだった。日時をはっきり覚えていないのだが、バラック建ての飯場のがらんとした広い畳の上に、彼は大きな南極地図を広げてその計画を語ったのだったが、山が専門だと思っていた男が唐突に南極大陸横断といったのに驚くばかりだった。結局は彼の夢のもちようを納得したのだったが、このときはほとんど何も書かれていない白い大陸のその白さだけが奇妙に心に残った。

 しかし、南極への夢を抱いたのは、この「マッキンリー登頂後」というのも、わずかに曖昧さを残すのである。

 植村は69年の冬、エベレスト越冬隊員として、ヒマラヤ高地のクムジュン村で越冬した。このとき、過去の世界放浪の日々を思いだし、将来の自分について思いをめぐらして、南極で何かできないだろうかと、幻のように心に浮かんだことがあった。それはなにげなく記録されているけれど、計画というほどの意思を示してはいない。一過性の幻のようなもの、だった。

 しかし、ある時間が経った後に、幻が深く根を下ろした計画として、改めて姿を現わす。並はずれた粘着力をもつ、いかにも植村らしい発想のあり方であり、夢の生長の仕方でもあった。