第11章 南極の夢 前編

 *      *      *
 たんに10カ月の待機時間ではない。

 植村にとっては、抱いた夢の実現に向けての長い時の流れがあった。この連載の最初の章から折にふれて述べてきたことと多少重複があるかもしれないが、植村が「南極の夢」と呼んでいたことの、その軌跡をここでもう一度追ってみよう。

 1972年1月14日、植村は初めて南極大陸を自分の目で見た。アルゼンチン海軍の船に乗船して、南極のアルゼンチン基地の一つであるベルグラーノ基地に到着したのである。その日の日記に彼は書いている――。

《マッキンリー登頂以来、この南極にかけてきたのだ。何一つ疑う心なくして。》

 ここでいうマッキンリー登頂とは、70年8月の単独登頂のこと。同年5月、日本人としてエベレストに初登頂した余勢を借りるようにして北米最高峰にさっさと登頂し(8月26日)、五大陸最高峰登頂者になった。頂上に立ったときに、次の目標は南極の単独横断だと心に決めた。引用した2行は、そのことを指している。