私は合計で33回潜水し、そのたびに平均14時間、タイタニックの残骸の上で過ごした。船上にいた時間は、今やスミス船長よりも長い。無人探査機を操っていると、まるで自分の化身(アバター)がタイタニックの船内を歩き回っているかのような錯覚を覚える。そうした超現実的な体験をしたことが、これまでの探査の中で最も印象に残っている。

 美しくも不気味な残骸は今や、この世とあの世のあわいにまどろむ。そこは日常からはかけ離れた奈落の底だが、なぜか私は奇妙な既視感にとらわれた。忠実に再現された映画のセットの中を何週間も歩き回っていたから、探査機のカメラが映し出す前に、壁の向こうに何があるかわかるのだ。それは薄気味悪い体験だったが、同時に不思議な安らぎが私を包んだ。まるでわが家に帰ってきたように。

Photograph by Discovery Channel, Mosaic by Ken Marschall
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Photograph © National Museums Northern Ireland, Collection Harland and Wolff, Ulster Folk & Transport Museum
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豪華な調度
スイートルームには、電気暖炉の上に金の置き時計が残っていた(下はオリンピック号のスイートルーム)。この船室で、米国の百貨店メイシーズの所有者イシドア・ストラウスと妻のアイダがともに最期を迎えた。アイダは夫を残して自分だけ救命ボートに乗るのを拒んだのだった。イシドアの遺体は、毛皮を裏張りしたコートとグレーのスーツ、茶色のブーツ、黒の絹の靴下という姿で発見された。
タグボートに導かれて英国サウサンプトンを出港するタイタニックを、近くの船から撮影した一枚。米国の好況期「金ぴか時代」を象徴する豪華客船は、5日後に北大西洋の海底に沈んだ。「この悲劇は、今後もずっと語り継がれていくでしょう」と、研究者のロバート・バラードは話す。
Photograph © National Museums Northern Ireland, Collection Harland and Wolff, Ulster Folk & Transport Museum
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