第5回 ヒトの進化はアフリカ限定だった!

 ただ、篠田さんが慎重になるように、この話には注釈をつけておく必要がある。「すべての人類の母」というイメージを持たれがちなのだが、それは明確に間違えだ。その女性の同時代には、ほかの男女も生きており、その中には我々の先祖となった人もたくさんいると考えられる。たまたまある女性が持っていたミトコンドリアが、今のすべての人類が持っているミトコンドリアの起源になった、という不思議は充分驚嘆に値するのだけれど、その時にその女性が一人きりで暮らしていたわけではない。あくまで、我々の祖先の一つになった集団に属していた、という理解が正しい。

「ミトコンドリア・イヴを包含する集団は、数千人くらいの規模だったと思います。祖先を辿ったら、1人の女性に行き着くというわけでは決してなく、1つの遺伝子を交配しているグループに行き着くくらいのイメージでとらえたほうがいいんです。1人の女性に行き着くという言葉の響きは、非常によくないと思っています」

 ちなみに、ミトコンドリアの変異をまるで動物の系統樹のように考えて分析していくと、15万年から20万年前の「ミトコンドリア・イヴ集団」はまだアフリカにいた可能性が高い。さきほど、人類は200万年前にアフリカを出たと篠田さんの発言を引いたが、ここでの「人類」は、北京原人やらジャワ原人といった旧人・原人のたぐいを含めたものだ。日常言語で「人類」と述べると現生人類ホモ・サピエンスのことを指すように思うが、研究者が同じ言葉を使う時、もう少し広く旧人・原人を含めた「ホミノイド(ホモ属)」を指すことがある。ここから先、混乱しないように現生人類のことは、きちんと「現生人類」と表記する。

 とにかく、現生人類であるホモ・サピエンスの祖先「ミトコンドリア・イヴ集団」はまだアフリカに留まっていたというのがポイント。

 これはほかの研究からも支持される。