ちなみに、最近、ドイツのマックス・プランク人類史研究所が、ネアンデルタール人の骨から核DNAを取り出して分析するのに成功した。その結果、初期の現生人類がネアンデルタール人と交雑していた可能性があることを示唆し話題になった。

 この研究で、使った試料では、ネアンデルタール人の核DNAは、一番長いものでも80塩基対くらいのつながりしかなかったそうだ。ここから30億塩基対もある核DNAを復元するのは、いかにコンピュータの助けを借りても、大変な労力だったろう。現時点においては、数多くの試料を使い、「人類の歴史」全体を俯瞰するような研究をしたい時には、サイズが小さく、復元もしやすいミトコンドリアDNAを使うことは理に適っている。もっとも、ミトコンドリアDNAでの分析には、「母系しか反映されていない」という制限が加わることを必ず意識しなければならないのだが。

 母系ということから考えて今生きている人たちの母方の先祖をどんどん辿っていくと、理論的には、たった一人の女性に行き着くことになる。

 この女性のことを、ミトコンドリア・イヴと呼ぶ。あまりにキャッチーすぎて、誤解を招くことがあるため、篠田さんは自分ではこの言葉は使わないそうだ。それでも、やはり、魅力的な概念には違いない。

つづく

国立科学博物館特別展「インカ帝国展」開催
2012年3月10日(土)から6月24日(日)まで、東京上野の国立科学博物館で「インカ帝国展 - マチュピチュ「発見」100年」を開催します。日本版2011年4月号「インカ 気高き野望」に掲載されたミイラも「来日」して展示されます。特集のフォトギャラリーはこちら。開館時間、休館日ほか、特別展の詳細は公式ホームページをご覧ください。

篠田謙一(しのだ けんいち)

1955年、静岡県生れ。国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ グループ長。医学博士。佐賀医科大学助教授、国立科学博物館人類第1研究室長を経て、09年より現職。DNAの分析により、人類のルーツや進化を解明する分子人類学が専門。主な研究テーマは日本人の起源とアンデス先住民の系統と社会構造。著書『日本人になった祖先たち──DNAから解明するその多元的構造』(NHKブックス)のほか、『骨の事典』(朝倉書店)、『日本列島の自然史』(東海大学出版会)などの共著がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合で「銀河へキックオフ」としてアニメ化される。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

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