篠田さんが最初に調査したのは、ペルー北部のシカンの遺跡だ。インカに多くの技術的な資産を残した文明として知られ、「黄金国家」の異名を持つ。この魅惑的なキャッチフレーズで、国立科学博物館でも特別展が開かれたことがある。南イリノイ大学の島田泉教授が中心となった執念の発掘エピソードは考古学の魅力を伝えてあまりあるのだが、また別の話。

 ちなみに、篠田さんが「歯を送ってください」と最初に述べたのは、篠田さんがDNAの分析をするのに一番よく使っているのが「歯」だからだ。

ミトコンドリアDNAの採集に使った歯(レプリカ)。 (写真クリックで拡大)

「理由は……簡単に抜けるから(笑)。骨でやろうとすると、ノコギリで切ってすごく大変なんです。例えば歯を100個取ろうと思ったら、3日もあれば充分なんですが、骨だとただ事じゃない時間と手間がかかってしまう。あと、歯の場合、表面の汚れを塩酸で全部洗って、内側からサンプルを取れるので、非常にハンドリングが楽なんですよね。もっとも、歯の形態などを見たい研究者にはすごい評判悪いんですけど」

 篠田さんから、抜き取った歯のレプリカを見せてもらった。DNAを分析するために破壊してしまうため、歯科医が使うレジンで複製を作って、のちのち他の研究者が参照できるようにしているのだという。貴重な人骨やミイラは、様々な分野の研究者が、独自の観点で調べたいと思っているわけで、このような配慮が必要になる。

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