2002年に逝去した、SF作家R・A・ラファティの傑作に『九百人のお祖母さん』(ハヤカワ文庫SF)という作品がある。インカのミイラの話を聞いて、ふと思い出した。

 ある惑星に住んでいる宇宙人が「死なない」という特質を持っており、つまり、先祖がみな生きている。次第に動かなくなり、小さくなっていくものの、常に「現役」にとって、無視できない存在であり続ける。自分の家の中に900人の先祖が、生きて存在し続けていると考えてみてほしい。何か違う世界が垣間見えるような気がしないだろうか。

 インカ帝国の王も、死後、ミイラとして生き続けた。「死後の生」を目に見える形で演じ、「現役」の王にも、一般の人々にも強い存在感を示していた。死後も領地を保持し、家来たちに、かしずかれ、着替えさせられたり、食事をさせられたりしていた、というから、我々の今の感覚とまったく違う。また、こういった文化が、インカ帝国の版図拡大にも影響したかもしれない意外な可能性があるというのも、驚きである。

 篠田さんは、この件について、さらに突っ込んで「死生観の違い」を強調した。

国立科学博物館の特別展「インカ帝国展」で展示されるミイラたち。篠田さんの研究対象だ。(写真クリックで拡大)

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