第2回 インカ帝国は「不死の国」だった!

「チャチャポヤの人たちのお墓に、インカ様式のものを持ってくるのは、ある種の征服のシンボルみたいなところがあったんじゃないでしょうか。チャチャポヤ人の中にも積極的にインカに帰属する人たちがいて、彼らのやり方を踏襲したのかもしれない。ただ、なぜ、この墓地できちっとした状態でミイラが保存されたのか、その部分はわからないんですね。ペルーの研究者は、石灰岩の洞窟の中に好条件が整ったんだとアバウトなことを言うので、こっちも「ああ、そうですか」って言うしかないんですが。もっとも、ある種の植物の樹脂で皮膚をなめしてはいるようなので、我々が知らないだけで、保存方法をインカから受け取ってるのかもしれないんですが」

 1996年に見つかったばかりの墓地であり、研究の歴史はまだ浅い。謎も多い。

 篠田さんは、今回の「来日」でも、破壊できないミイラ(もちろんやろうと思えば出来るわけだが、貴重な存在であり、ぼく個人の感覚としては「人権」上の抵抗感もある)をCTスキャンにかけて、内部がどうなっているか、はじめて探るそうだ。南米のミイラ文化の中で、内臓を抜いてガス抜きの処置をしたり、さらに穀物を詰めるというようなこともあったわけで、そのような発見があるかもしれない。

 さらに篠田さん自身の大きなテーマがある。ミトコンドリアDNAの分析による人類史の解明だ。

 この件に目を向けると、これまで語ってきた社会文化的な文脈での「ミイラ」から大いに飛躍することになる。

つづく

国立科学博物館特別展「インカ帝国展」開催
2012年3月10日(土)から6月24日(日)まで、東京上野の国立科学博物館で「インカ帝国展 - マチュピチュ「発見」100年」を開催します。日本版2011年4月号「インカ 気高き野望」に掲載されたミイラも「来日」して展示されます。特集のフォトギャラリーはこちら。開館時間、休館日ほか、特別展の詳細は公式ホームページをご覧ください。

篠田謙一(しのだ けんいち)

1955年、静岡県生れ。国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ グループ長。医学博士。佐賀医科大学助教授、国立科学博物館人類第1研究室長を経て、09年より現職。DNAの分析により、人類のルーツや進化を解明する分子人類学が専門。主な研究テーマは日本人の起源とアンデス先住民の系統と社会構造。著書『日本人になった祖先たち──DNAから解明するその多元的構造』(NHKブックス)のほか、『骨の事典』(朝倉書店)、『日本列島の自然史』(東海大学出版会)などの共著がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合で「銀河へキックオフ」としてアニメ化される。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider