それにしてもこの北極点単独行では、さまざまな事情で強い犬を手に入れることができなかった。さまざまな事情の筆頭は同時期に日大隊の大がかりなチームが、北極点をめざした、ということがある。しかも日大隊がグリーンランドなどであつめた114頭の犬が空輸中の事故で全部死亡した。その結果、もう一度犬の買い付けが行なわれ、値段が高騰したという事実がある。

 要するに植村は何頭かを除いてほんとうに良い犬を手にすることができず、最初17頭で出発した後、行動の途中で何度か犬を補強せざるを得なくなった。そうはしたものの、なかなか思うような犬のチームができなかったのである。

 そのうえ、雌犬はリーダー犬のクロ1頭と思っていたところ、なんとシロと名づけた犬が雌だったことが後からわかって、このシロが行動中に出産するというハプニングまであった。シロをテントの片隅に入れ、仔を産ませたのはおめでたいことではあったけれど、よけいな手数ともいえることだった。

 結局、北極点到達まで、まじめに橇をひいたのは7頭ぐらいで、他の犬たちは食べるだけ食べて橇の動きにぶら下がっていたようなもの、と植村は報告している。

(写真提供:文藝春秋 (c) Bungeishunju)
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