第20回 挑戦の夜明け

 モンテベルデの森の夜明け。

 今回ぼくがモンテベルデ生物保護区へ向かった真の理由。それは、ある挑戦をすることを決意したからだ。

 12年ほど前、コスタリカ大学の修士課程でぼくは、虫こぶを形成する蛾をテーマとした論文に取り掛かっていた。幼虫が植物の中に入り込んで、葉や茎を不思議な形の「こぶ」に発育させるタイプの蛾だ(ここでは虫こぶ蛾と呼ぶことにします)。世界を見ても専門家はほとんどいないから、その分野を極めたいと意気込んでいた。

 しかし、途中で論文の内容を変更した。ハワイの侵入植物の生物的防除の仕事を依頼され、その調査のための時間が流れ始めたからだった。“虫こぶ蛾”という壮大なテーマより、生物的防除のデータの方が論文にしやすかった。

 でも、それは言い訳だとわかっている。

 現在もぼく自身に「虫のこぶ」ができそうなほど、多種多様な昆虫たちに囲まれているけど、虫こぶ蛾の研究ははかどらない。そもそも虫こぶ蛾がぼくの昆虫中心生活の中心のはず。我の虫は「蛾」なのである。

 ぼくは、コスタリカ大学の博士課程へ編入しようと決めた。虫こぶについてのデータは、そこそこたまっている。ぼく自身にプレッシャーを与え、虫こぶ蛾の研究に新たに挑戦しよう!

 まだ入学が決まったわけではない。けれど、ぼくは新たな研究に適した環境を探すことにした。それが、今回ぼくがモンテベルデの森へ向かった理由だ。

 さて、森でどんな出会いがあったかは、次回に。

*虫こぶ:昆虫などが葉や茎など植物に入り込み、ある特定の組織に刺激を与え、成長をコントロールしながら促し、発育させた部分。

ブラケア・リトラリスの花?
A flower of Blakea litoralis?
赤い花びらを重ねたような物体は花のように見えるが、実はアカバナキバガの一種の幼虫によってつくられる虫こぶ。この木の花とは全く違う。
大きさ:約2 cm 撮影地:サン・ラモン、コスタリカ(写真クリックで拡大)
コケのようなカマキリ
Mossy praying mantis, Pogonogaster cf. tristani
今回のモンテベルデの旅の調査初日、早朝から木々の間で虫こぶを探していると、コケが一瞬縦方向へ動いた。いきなりのサプライズ! 早速カメラを向け撮影した。動いてくれないとまず気づかないだろう。専門家の方にも、新種かどうかまだわからないそうだ。
体長: 27 mm  撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html