第9章 北極点単独行――冒険家にとっての記録 前編

北極点に立ち、日本、カナダ、デンマーク、アメリカの国旗を掲げた。(写真提供:文藝春秋 (c) Bungeishunju)
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 植村直己は、1978年4月29日、北極点に犬橇で到達。犬橇による単独行というのは世界で初めてのことだった。3月5日にエルズミア島(カナダ領)のコロンビア岬に飛行機で降り立ち、以後56日かけて約800キロを走破したことになる。

 この冒険は、さらにもう一つの冒険と一組になっていた。北極点到達後、帰路を少しずらしてグリーンランドの北端モーリス・ジェサップ岬をめざす。そこからグリーンランドの広大な氷床に登り、グリーンランドの北端から南端まで、単独、犬橇で走る、というものだった。

 このグリーンランド縦断は、北極点到達が予定より遅れたため、北極点からの復路でというわけにはいかなくなって、北極点からモーリス・ジェサップ岬まで飛行機で運ばれ、5月12日に改めて出発した。そして8月22日、グリーンランド南端のヌナタックに到着。走行距離は3000キロに及ぼうかという長大な犬橇冒険旅行だった。

 北極点単独行とグリーンランド単独縦断。二つの異なった冒険を一続きのものとして行なおうとした発想に、植村の自信を見ることができる。実際37歳の植村直己は、体力気力ともに充実していた。

 そうには違いないけれど、二つの冒険を一気にやってしまおうとした彼の心情については、後に改めてふれてみたい。