第18回 まさか、これが新種とは!

 大学院を下見したり、スペイン語を磨いたりするためにコスタリカを訪れていた1997年の話。

 標高3000メートル級の高山の一帯で、蝶や昼間飛ぶ蛾を調査するというので同行させてもらった。初めての野外採集に胸躍った。ぼくはまだ、コスタリカの蝶のことなど何も知らなかった。

 赤道近くのコスタリカであれ、高山となれば年中寒い。昼間なのに寒い。晴れていても気温は15℃。夜は0℃近くまで下がる。足を進めるが、辺りはまったく静かで、蝶が飛ぶ気配もない。他の虫たちもそう見かけない。

 空気が薄いので、知らずと深く息を吸っていた、そのときだ。

 20メートルほど先の林道を、モンシロチョウのような白い蝶が横切った。
 あわてて駆け足でそこへ急ぐ。あっ、また! 今度はこっちに向かって飛んでくる。
 網を構える。ジャーンプ!

 蝶は網の中に入っていた。
 後でもう一匹、必死になって網を振り回しながら追いかけ捕まえた。息苦しかったけど、気持ちよかった。

 家に着いて、翅を広げてみるが、2匹のうち、1匹は翅が少しボロボロだったので、ゴミ箱へ捨てた。後日、蝶の専門家に見てもらうと、なんとそれは新種だった!

 ゴミ箱をあさるアホな自分・・・、すでにその蝶はゴミ焼却所へと向かった後だった。
 痛恨。

キロプシス・エミリアというジャノメチョウの一種
Cyllopsis emilia Chacón & Nishida, 2002
ホロタイプ(正基準標本=種が記載される際に基になり、指定されたたった1つの標本)、オス。最初の写真が表(背面)で、コスタリカでよく見かける白いモンシロチョウに似ている。裏(腹面)はキロプシス属特有の小さな目玉模様と細いメタリックの線が入っている。生殖器を記載するために胴体は切り離した。英名はWhite Gemmed-Satyr, シロカザリジャノメとでも訳しておこう。
前翅長:24 mm 採集地:セロ・デ・ラ・ムエルテ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
新種を採集した場所
Collecting site of the new species
卵や幼虫、メスも未だ見つかっていない。ゴミ箱に捨てた標本もオスの可能性が高い。発見後6年間も同じ場所へ採集調査に通い詰めたが、再びその姿を見ることはなかった。現在も上の写真の標本が一個体があるだけだ。
撮影地:セロ・デ・ラ・ムエルテ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html