発想の転換でとらえた戦いの間の休息

 戦争に疲弊した米国において、悲惨な戦闘ではなく、人間的な休息をとらえたこの写真が、1968年にピュリツァー賞を受賞しました。

静かな雨、静かな時。 © Corbis/酒井淑夫(UPI)
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 酒井淑夫(さかい としお)はUPI通信東京支社にいました。ベトナムへの派遣を自ら希望し、1967年から戦争終結まで取材を続けたのです。

 酒井は長い取材経験から、大雨が静かな時をもたらし、静かな写真を撮る機会を与えてくれることを知っていました。それはいつもの戦闘の写真と好対照をなすだろう、と。

 米兵たちは大雨をよけるためにポンチョに身を包んでいます。ある黒人兵が、掩蔽壕(えんぺいごう:上部などを覆って物や人を隠すための壕)のずぶ濡れの砂袋の上に横たわり、しばし目をつぶっています。背景には、戦友の白人兵が座り、ライフルをいつでも使えるようにして、敵襲を警戒している様子が見えます。敵襲などなさそうな大雨でしたが、油断せず、兵士は順番に見張りに立っていました。

「より良きころの夢」と題されたこの写真は、ピュリツァー賞の特集部門受賞第1号となりました。日本人としては3人目の受賞者です。

 これ以降、日本人受賞者はいません。また、日本が撮影の現場となった受賞作は1945年の「硫黄島の星条旗」だけです。受賞作の多くが戦争や内乱といった悲惨な場面を切り取ったものが多いことを考えると、必ずしも悲観するものではないかもしれません。

 意外と知られていない日本とのかかわりは、テレビでも連日報道された2007年の事件です。ビデオ・ジャーナリスト長井健司氏がミャンマーで僧侶のデモを取材中、兵士に撃たれ亡くなるということがありました。この瞬間を撮影した写真で、アドリース・ラティーフが2008年にニュース速報部門を受賞しています。

 次回は、受賞作がもたらした影響についてご紹介します。

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ピュリツァー賞設立の1942年から最新の2015年までの受賞作を収録。写真のみならず、背景や写真が果たした役割なども詳述。解説の資料性も高い必携の書。
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