第1回 遺伝か環境か、それがモンダイだ

 もっとも、この説明だけだと、「同じ家庭で育つ双子でも、完全に同じ環境に置かれているわけではないのではないか」と疑問を持つ人もいるかもしれない。実際のところ、双生児法の研究では、当然、そのことも考慮して分析されると、申し添えておく(ここでの説明はすごく単純化しているのです)。

 その上で……印象的な関連エピソードをひとつ。「遺伝子は同じで、育つ家庭も同じ、一卵性双生児なのに、違う環境に置かれ、違う経験をする」具体例として、安藤さんにはこんな体験があるそうだ。

「研究に協力してくれている家庭で、すごくハンサムな男の子の一卵性双生児がいたんです。もちろん、そっくりなんですが、でも一方のほうが紙一枚、微妙に、よりハンサムなんですよ。そうするとね、女の子達がみんな「こっちの方がいいよね」みたいに言う。単体で出てくれば両方ともすごいイケメンなんだけど、2人いるばっかりに片方には日が当たらないんです。もう可哀想になっちゃうくらいで──」

 これはまさに、遺伝子が同じなのに、経験が非対称になってしまう例であり、直観的にも、人格形成に影響する気がしてならない。また、こんなにあからさまではなくとも、どちらかを「兄・姉」「弟・妹」として、便宜上、長幼を決めることすら、双子にとって環境の違いになるかもしれない。

 それでは、遺伝と環境が、人の性格や能力にどの程度の影響を及ぼしているか。それを見ていこう。

つづく

安藤寿康(あんどう じゅこう)

1958年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部教授。教育学博士。専門は行動遺伝学と教育心理学。遺伝と環境は、人間にどう影響しているのか、科学的な解明を目指して研究を続けている。主な著書に『遺伝マインド』(有斐閣)、『遺伝と教育――人間行動学遺伝学的アプローチ』(風間書房)、『心はどのように遺伝するか――双生児が語る新しい遺伝観』(講談社)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン──銀河のワールドカップ・ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合で「銀河へキックオフ」としてアニメ化される。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider