第8章 故郷 後編

《置き鉤もやりました。9月頃、やや流れが増水したぐらいのときがいいですね。30メートルのタコ糸に、約1メートル間隔で鉤をつけ、いちばん先端にわりに重い石をつけて、流れのゆるいところで川の中に放り投げるんです。はえなわ式の仕掛けですね。鉤には、ミミズ、でっかいシマミミズをつけます。糸を流れと直角に置き、こっちの端は川べりのネコヤナギの枝に結びつけておきます。
 ひと晩おいて、翌朝、そろりそろりとあげるんですが、まあ1匹か2匹かかっていて、多いときは3、4匹。ウグイの大きいのとか、ナマズの大きいやつ、それにうまくするとウナギ。》

 第二第三の植村直己の出現を願っていうのではないが、こういう植村の思い出話を聞いていると、少年たちよ、野外に出て遊びなさいと、切実に思うばかりである。

1983年、米国ミネソタ州イリーの湖でカヌーを漕ぐ植村直己。子どもたちを大自然のなかで鍛えたいと願い、イリーにある野外学校に体験入学したときのひとこまだ。同じような学校を日本に作ることもまた彼の夢のひとつだった。(写真提供:文藝春秋 (c) Bungeishunju)
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つづく(次回は2月16日公開予定)

湯川豊(ゆかわ ゆたか)

評論家、エッセイスト。1938年新潟生まれ。慶応大学卒業後、文藝春秋に入社。『文學界』編集長、同社取締役などを経て、2009年より京都造形芸術大学教授。『イワナの夏』『夜明けの森、夕暮れの谷』(共にちくま文庫)、『終わりのない旅 星野道夫インタヴュー』(スイッチパブリッシング)などがある。2010年『須賀敦子を読む』(新潮社)で読売文学賞受賞。


本文ではグリーンランドからアメリカにいたる極北の先住民を「エスキモー」と表記しています。この言葉は一概に差別的とされているわけではないものの、一部登場するカナダの先住民は現在、「イヌイット」という呼称を使うように主張しています。しかしながら、本文では植村直己氏が、自らの探検でかかわった極北の先住民一般に対し愛着をこめて「エスキモー」と呼んでいることを尊重し、その呼称を用い、著者の表記もそれに準じています。
(Webナショジオ編集部)