第8章 故郷 後編


 最初にいったように、日高町上郷は円山川の右岸に位置し、あたり一帯は円山川がつくったさして大きくはない盆地といっていいだろう。ただしこの盆地は、まずは気候も穏やかで物成りもゆたかだった。早く奈良時代から国分寺が置かれ、あわせて国府があったことが、それをよく語っているであろう。

 現在、豊岡市は、海にほど近く、丘の連なる場所を選んでコウノトリの繁殖に力を入れている。この昔からの留鳥が日本各地で見られなくなってひさしいが、豊岡市がなんとかこの鳥を復活させようとつとめているのは、古い土地柄である但馬盆地にふさわしいことにも思われる。

 話が少しとぶが、2009年の4月、私は植村の郷里周辺を特別な目的もなくふらふらとうろつきまわった。ちょうど満開のサクラが散りはじめる頃で、春の但馬はおだやかで美しかった。

 案内の労をとってくれたのは、日高町にある植村直己冒険館の吉谷義奉館長(当時、現在は豊岡市の観光課長)、それに植村の小、中学校の同級生だった正木徹氏である。

 ちなみにいうと、日高町の植村直己冒険館は、93年に当時の清水豊町長の一念で建てられたものである。冒険館は田舎にはめずらしいほどモダンで軽快な雰囲気をもつ建物で、現在でも少しも古びた感じがない。よくぞ思い切ってつくってくれたものだと思う。