第6回 田邊優貴子「知床ではないのだ」

氷の世界の皇帝? まるまると太った体が貫禄のコウテイペンギン。(写真クリックで拡大)

 双眼鏡を外し肉眼で見てみると、ただの黒ゴマのようです。
 が、なんと言おうとこれが記念すべき今回のファーストペンギンコンタクト。

 もはやここは知床ではないのだ、ということをはっきりと教えてくれる存在です。
 そして、どこまでも続く白と青の世界にほんの小さな点でしかないコウテイペンギンが、この世界の果てしない広がりというものをより一層際立たせてくれるのでした。

 一見すると、まるで生命を寄せつけないような氷の海。
 しかし、氷を割りながら進むしらせの脇には、大増殖したアイスアルジー(藻類です)で茶色くなった氷がひっくり返っています。
 そしてこれを捕食する大量のナンキョクオキアミを狙って、多くのクジラやペンギンたちがここにやって来ます。

 氷海に入って4日間、コウテイペンギンやアデリーペンギン、カニクイアザラシやウェッデルアザラシが近くに現れています。
 空を舞う海鳥もすっかりこれまでと様相が変わり、ナンキョクフルマカモメや、ギンフルマカモメ、ユキドリといった南極に棲息する種に取って代わりました。

 さあ、南極大陸はもう目の前です。

2011年12月17日 南緯68度、東経38度 しらせにて

深夜になっても沈まない白夜の太陽に照らされた氷山とナンキョクフルマカモメ。(写真クリックで拡大)
渡辺佑基

渡辺佑基(わたなべ・ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。世界の極地を飛び回り、データロガーを駆使して主に極域に生息する大型捕食動物の生理生態および種間比較を研究している。2011年「動物の泳ぐ速さを決めるサイズ効果を発見」(J. Anim. Ecol. 80, 57-68 (2011))が『Nature』の「News&Views」に紹介された。同年、学術分野全般で優れた実績を積み上げた人に贈られる山崎賞を受賞。

田邊優貴子

田邊優貴子(たなべ・ゆきこ)

1978年、青森市生まれ。2006年京都大学大学院博士課程退学後、2008年総合研究大学院大学博士課程修了。現在は、早稲田大学 高等研究所・助教。植物生理生態学者。博士(理学)。
小学生の頃から極北の地に憧れを抱き、大学4年生のときには真冬のアラスカ・ブルックス山脈麓のエスキモーの村で過ごした。それ以後もアラスカを訪れ、「人工の光合成システム」の研究者から、極地をフィールドにする研究者に転身する。
2007~2008年に第49次日本南極地域観測隊、2009~2010年に第51次隊に、2011~2012年に第53次隊に参加。2010年夏、2013年夏に北極・スバールバル諸島で野外調査を行うなど、極地を舞台に生態系の研究をしている。
ポプラビーチでエッセイ「すてきな 地球の果て」連載中
http://www.poplarbeech.com/chikyunohate/005708.html