クマムシ研究者、パリ第5大学の堀川大樹研究員は、30代前半の若年で、ポスドク(博士後研究員、博士号取得後に任期制のポストについている)の立場にある。
前回述べたように、札幌の豊平川に架かるとある橋で採集したクマムシが、結果として堀川さんをここに導いた。
パリ第5大学のキャンパスは、パリのサンジェルマン・デュプレ、モンパルナスといった観光名所にも近い。また、科学史を勉強すると必ず登場する細菌学の祖、パストゥールの名を冠した地下鉄駅から徒歩2分の距離にある。パリ第1~第4大学までがソルボンヌ大学と呼ばれるように、偉人の名を冠してルネ・デカルト大学と呼ばれることもあるようだ。
近所に宿を取ったぼくを迎えに来てくれた堀川さんは、黒いシックなコートを着込み、知的近代史の匂いがぷんぷんする周辺環境に実にマッチしていた。
ところが、導かれたパリ第5大学の建物は「半端に現代的」なたたずまいだった。なんの変哲もないオフィスビルのようで、その3階にある理科実験室を大きくしたような大部屋が、堀川さんの研究の現場なのだった。