第2回 クマムシに出会ってひと目ぼれ

 ここまでは、野生から採集してきたクマムシでの研究だ。

 博士課程に進み、今度は生態学というよりも、さらに生理学に近い研究をしたいと考え、放射線耐性について探究すると決めた。このとき、堀川さんは、野生からの採集だけでは済まず、飼育して、たくさん実験する必要に駆られる。

 ちなみに、この時点で、堀川さんは札幌にて、新種かもしれないクマムシを採集済みだった。ツメボソヤマクマムシの仲間で、現在、ヨコヅナクマムシと呼ばれているものだ。しかし、まだ、みずから系統を確立しようという発想はない。

 ちょうどその時、慶応大学の鈴木忠准教授が、オニクマムシの飼育に成功したという論文が出版され、堀川さんも、オニクマムシ飼育をまずは試すことになる。

 なお、鈴木准教授は『クマムシ?!─小さな怪物』(岩波 科学ライブラリー)を一般書として上梓し、現在の日本の微妙なるクマムシ人気を築く礎となった人物だ。かくいうぼくも、その本を読み、クマムシをどうしても見たくなって、双眼実体顕微鏡を購入してしまった者である。しかし、何度もコケを採集し、クマムシを見つけようとして失敗してきたことを告白しておく。

つづく

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京生まれ。地球環境科学博士。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年からはAXA研究財団リサーチフェローとして、パリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。ブログ「むしブロ+」およびFacebookページを運営。ツイッターアカウントは@horikawad

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は学校の「いま」と家族、地域の「在り方」をリアルに描いた長編エンタテインメント『ギャングエイジ』(PHP研究所)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider