第3話 JAMSTECへの道 後編
その3 この研究を深海熱水でやりたい!!
結局、クルマを出す必要はなかったが、その日の夜遅く、掘越先生を迎えにアトランタ空港に一緒に行くことになってしまった。何かボクの身の回りで、激流が渦巻いているような気がしていた。そして、空港ではじめて掘越先生に挨拶した時、またカトーさんが「ハハッ、紹介します。来年からウチにくる予定のタカイ君です」と言った。
その時だった。掘越先生は、昔の偉い大学教授然とした雰囲気を残した人なので物凄くオーラがあるが、普段は気さくな笑顔を振りまく先生なのだが、カトーさんの紹介には、「ギラン」と目を光らせた。「値踏みされている」ということがすぐにわかった。
ボクは掘越先生の眼光に、かなり萎縮してしまったが、すぐに「ナメられるな!」と自分を鼓舞した。掘越先生の底の見えない「人間の怖さ」は、何かカトーさんの軽さとは絶対的に相容れないモノがあるような気がした。そして、自分の置かれた事態がよく分からない、狐につままれているような気分は変わらないままだった。
そして、ボクにとって初めての、興奮に溢れた、またいろんなコトが起こりすぎた、激動の国際学会が終わった。何となく、ボクの未来は視界良好なのか暗中模索なのかよくわからなかったけれども、まずは博士論文を仕上げることだと自分に言い聞かせてバタバタと帰国の途についた。
つづく(次回、「高井クン、騙されてるんとちゃうやろな?」)

高井 研(たかい けん)
1969年京都府生まれ。京都大学農学部の水産学科で微生物の研究を始め、1997年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者に。現在は、同機構、深海・地殻内生物圏研究プログラムのディレクターおよび、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットリーダー。2012年9月よりJAXA宇宙科学研究所客員教授を兼任。著書に『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)など。本誌2011年2月号「人物ファイル」にも登場した。
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