第3話  JAMSTECへの道 後編

その3  この研究を深海熱水でやりたい!!

もちろんボクは、そういう当時流行しはじめた微生物生態学的研究について、よく知っていた。しかし、当時のボクは「ヘッ、何が分子生態学だよ、遺伝子の配列だけで何がわかるっちゅうんだよ。微生物は機能が重要なんだよ。遺伝子配列みたいな血の通ってない結果なぞ、誰も興味持たんワイ! ヘッ、ナメンなよ!」という好戦的タイドで接していたのだ。

そしてクリスタ・シュレパーにもつたない英語で同じような内容の事(「ヘッ、ナメンなよ!」は英語で表現できる能力がなかった)を言って、ケンカを売ったんだ。

クリスタ・シュレパーは、ひどいドイツ語なまりの英語で「ワタシは学生時代ずっと超好熱菌の生化学の研究をしていたの。そして今、ノーマン・ペースの下でポスドクをしながら、こういう研究をしているの。だから、アナタの言うことはよく分かるわ。でもケン、こういう未知の古細菌が、そこら中にいっぱいいるのって楽しくならない? まだまだたくさん明らかにすべき、ワタシ達のための古細菌がいるのよ」と言った。彼女の言葉は、ボクのなかの何か敏感なところにズシンと響いた。

クリスタ・シュレパーは次から次へとやってくる見物客を相手に、楽しそうに自分の研究を語っていた。ボクはその姿を見て、とても羨ましく感じたんだ。自分のポスターなんて、パラッパラッと同業者が見に来るだけなのに、彼女の発表には、いろんな分野の研究者が「押すな押すな」の状態で殺到している。会場一番の集客力だ。そしてみんな何か物凄いエネルギーに溢れている。

Thermophiles’96で発表したボクのポスター。ダサダサですねえ。当時はまだ1枚刷りみたいな便利なモノはほとんど登場してなかった。ボクのポスターの閑散としたお客に比べて、クリスタ・シュレパーのポスターの見物客は凄い熱気だった。
(提供:高井研)