第7章 『青春を山に賭けて』の時代〔その2〕後編

 いつもながらエベレストを眺めては、心は来年のエベレスト遠征の空想にふけりつつ走るのだった。まだ初めて四日目。四〇〇〇メートルの高度で起伏のあるコースを走ることは大変だ。(中略)

 俺がここでチベッタン茶を飲み、ジャガイモを食べ、ペンバの家に居るのも、又凍りつく朝の寒さをこらえてトレーニングできるのも、エベレストがあるからだ。このクムジュン生活はすべてエベレスト頂上にかけている。ここまでしてエベレスト頂上に登れなければ、自分という人間がそれだけ至らなかったのだ。ここで考えなくてはならないのは、アコンカグアやアマゾン河での単独行動ではないことだ。

 来年のエベレストは十五人のクライマーが来るという。そうすると、いかに自分が頂上に登ろうとしても、他の十五人も俺と同様に、心に強くエベレストの頂きに立つ夢と野心を燃やしているのだ。こういった人たちと競って先に頂きに立とうとするのが自分であろうか。いや、そうでありたくない。

 十五人の和でもって、誰かが選ばれれば良いのだ。その時には自分が選ばれなくとも、それは我慢しなくてはならない。俺はエベレスト遠征隊の大きな歯車のひとつにすぎないのだ。(中略)

 こんな中で、俺は自分は登頂メンバーでなくてはいけないと思っている。チャンスは二度と来ないのだ。どんな事があっても逃がしてはならない。このチャンスを摑みとることによって自分の今後が大きく変わっていくだろう。》

 矛盾した思いが、そのままに流れているのが手にとるように読み取れる。

 年の暮れに、植村は準備もあっていったんカトマンズに下りた。そこで植村を打ちのめすようなニュースが待っていた。