第7章 『青春を山に賭けて』の時代〔その2〕後編

(承前)
 クムジュン村にいて、トレーニングのほかにとりたててすることはない。高地に暮らしていること、それが高度順化になるのだ。彼は近くの村まで足ならしの散歩などをしながら時を過した。

 その間、彼は隊員の一人としてエベレストの頂上に立てるかどうか、考えつづけている。自分を登山隊のなかでどう位置づけるか。さらに、はたして登頂のチャンスは与えられるのか。考えてもはじまらないことと思いながら考えつづけている。

 第二次偵察隊で、「ジ・アニマル」というアダ名をつけられたことが、気になってしかたがない。『エベレストを越えて』(文春文庫)のなかで、三度、このアダ名についての思いが綴られている。

 植村には自分はインテリではないという、不要な劣等感がある。第二次偵察隊のメンバーに対して、彼は引け目を感じつづけた。そこに「ジ・アニマル」とアダ名がつけられれば、気にせざるを得ない。「隊員たちは意地の悪い意味でつけたとは思わない」と思いながら、いつまでもくどくどと考えこんでいるのである。

手前の前衛峰はヌプツェで、奥に見える頂がエベレスト。(写真提供:文藝春秋 (c) Bungeishunju)
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