第3回 渡辺佑基「空の王者」登場

ワタリアホウドリ。(撮影:渡辺佑基/協力:ニコンイメージングジャパン)
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 ワタリアホウドリ――この特別な鳥を見ると私は高ぶる気持ちを抑えられない。翼を広げると3mにもなる世界最大の空飛ぶ鳥である。長い長い翼を目いっぱい広げ、グライダーのようにゆったりと風に舞う様子は威風堂々「空の王者」の貫録。他のミズナギドリやアホウドリに混じって飛んでいると、コウモリの群れの中にプテラノドンがいるようである。あまりの迫力にワァと思わず見とれてしまう。

 そして巨躯に似合わぬアヒルのようなとぼけ顔。いいよ、そのままで、きにしなくても――そんなことを言っているようなおだやかなる表情。「空の王者」は全てを包み込む懐の深さをもち、泰然自若としているのである。フリーマントルの街で購入した「プリングルス」のポテトチップスを早くも2箱平らげてしまい、ああもっと買っておけばよかったと後悔している私のなんと卑小なことか。

 15ノットの速度で南下する「しらせ」では見まわす限り水平線の光景が出港以来ずっと続いている。果てなく見えるこの大海原でさえ、彼らにとっては庭のようなものだろう。2羽のワタリアホウドリが船の周りを舞い、付いたり離れたりしていたが、やがて飽いたのかどこかへ行ってしまった。

つづく

渡辺佑基

渡辺佑基(わたなべ・ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。世界の極地を飛び回り、データロガーを駆使して主に極域に生息する大型捕食動物の生理生態および種間比較を研究している。2011年「動物の泳ぐ速さを決めるサイズ効果を発見」(J. Anim. Ecol. 80, 57-68 (2011))が『Nature』の「News&Views」に紹介された。同年、学術分野全般で優れた実績を積み上げた人に贈られる山崎賞を受賞。

田邊優貴子

田邊優貴子(たなべ・ゆきこ)

1978年、青森市生まれ。2006年京都大学大学院博士課程退学後、2008年総合研究大学院大学博士課程修了。現在は、早稲田大学 高等研究所・助教。植物生理生態学者。博士(理学)。
小学生の頃から極北の地に憧れを抱き、大学4年生のときには真冬のアラスカ・ブルックス山脈麓のエスキモーの村で過ごした。それ以後もアラスカを訪れ、「人工の光合成システム」の研究者から、極地をフィールドにする研究者に転身する。
2007~2008年に第49次日本南極地域観測隊、2009~2010年に第51次隊に、2011~2012年に第53次隊に参加。2010年夏、2013年夏に北極・スバールバル諸島で野外調査を行うなど、極地を舞台に生態系の研究をしている。
ポプラビーチでエッセイ「すてきな 地球の果て」連載中
http://www.poplarbeech.com/chikyunohate/005708.html