第2回 渡辺佑基「出港」

 さて、前述のとおり「しらせ」は明日フリーマントルを出港し、4カ月もの長い旅がいよいよ始まる。日本を発つ前、南極の経験が豊富な上司に挨拶にいったところ「お勤めごくろうさま」と言われた。刑務所に入るわけじゃないんだから、と言いたくなるが、確かに世間とのつながりはプッツリ途切れるし、生活は不自由になるし、おまけに頭も丸めていたので「ハイ」と答えて退出した。

 その伝でいうなら今日が最後の「シャバ」生活。南極で恋しくなるものは前回の経験からあらかじめわかっている。パリパリのレタス、プリプリの魚介類、バターをたっぷり塗った焼きたてのトースト――今から一人で街に繰り出して腹いっぱい食べようと思う。そうして目の前に迫った南極航海に胸を躍らせよう。

夜の「しらせ」。(写真提供:渡辺佑基/協力:ニコンイメージングジャパン)(写真クリックで拡大)

つづく

渡辺佑基

渡辺佑基(わたなべ・ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。世界の極地を飛び回り、データロガーを駆使して主に極域に生息する大型捕食動物の生理生態および種間比較を研究している。2011年「動物の泳ぐ速さを決めるサイズ効果を発見」(J. Anim. Ecol. 80, 57-68 (2011))が『Nature』の「News&Views」に紹介された。同年、学術分野全般で優れた実績を積み上げた人に贈られる山崎賞を受賞。

田邊優貴子

田邊優貴子(たなべ・ゆきこ)

1978年、青森市生まれ。2006年京都大学大学院博士課程退学後、2008年総合研究大学院大学博士課程修了。現在は、早稲田大学 高等研究所・助教。植物生理生態学者。博士(理学)。
小学生の頃から極北の地に憧れを抱き、大学4年生のときには真冬のアラスカ・ブルックス山脈麓のエスキモーの村で過ごした。それ以後もアラスカを訪れ、「人工の光合成システム」の研究者から、極地をフィールドにする研究者に転身する。
2007~2008年に第49次日本南極地域観測隊、2009~2010年に第51次隊に、2011~2012年に第53次隊に参加。2010年夏、2013年夏に北極・スバールバル諸島で野外調査を行うなど、極地を舞台に生態系の研究をしている。
ポプラビーチでエッセイ「すてきな 地球の果て」連載中
http://www.poplarbeech.com/chikyunohate/005708.html