第3話 JAMSTECへの道 後編
その2 ヌルすぎるぞ、オマエら!--反抗期の博士課程
残念ながら、ボクが学生の頃には、その「魔法の法則の夢」はすでに、むなしく散っていたのだった。とはいえ、それなりの原理は解読されていたので、ひょっとするとかなり先の未来には可能かも?という一抹の期待はまだ残されていた。
ところがだ。1980年代の中頃から海中の熱水環境などから、100℃以上の高温で生きられる超好熱菌が、バシバシ見つかり、そのタンパク質の熱安定性について研究が進むと、そんな期待が打ち砕かれてしまった。超好熱菌のタンパク質は、「普通の好熱菌のタンパク質とはぜんぜん違うやり方」によって、より高度な耐熱性を獲得している。そんな最新の結果が、毎週のように研究論文で報告されている状況だったのだ。ボクの博士課程時代は。
「時代はタンパク質のX線立体構造解析なんじゃあ! 構造生物学なんじゃあ!」という、いつもの短絡的マイブームが到来していた。そしてボクの研究興味は、「生命の起源や太古の生命を解明したい」という原初の想いとは、かなり離れた場所を漂流していたと言えよう。
一方でそんな超好熱菌のタンパク質の熱安定性についての最新の研究成果に触れる度に興奮しながらも、実は自分の研究を客観視する冷静な部分のボクは焦ってもいた。どんどん新しいことが分かり、共通原理みたいなモノも見えはじめつつある状況のなかで、「自分の研究はそんな研究たちと比べてどうよ? カスみたいな研究なんじゃないか? カスとまでは言わんが、定食に付いてくる黄色いタクアンぐらいなんじゃないか?」と。
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