長い浪人生活を終え、心身ともに疲れきっていたぼくは、大学に入ったら、なにか人間社会とは別の、新しい世界を見てみたいという漠然とした憧れを持っていました。

 どこともしれない土地へ、大空に羽ばたいて飛んでいく渡り鳥……。

 社会的評価や人間関係とは縁のない自然の奥へ、自分の力で旅をしてみたい。そう願っていたぼくには、「ワンダーフォーゲル」という言葉が、自由な風と力強い翼の象徴のように聞こえたのです。

 でも、実際のところはやはり体験してみないと分かりません。そこで、入部の前に、新入生を対象にしたハイキングが用意されていて、参加することにしました。

 プランの多くは、奥多摩や東京郊外での日帰りの沢歩きでしたが、ぼくが選んだのは、奥秩父の両神山を沢登りで登頂し、登山道を下りてくるという一泊二日のプランでした。

 「どうせ行くならキャンプや焚き火もしてみたい」と気軽な気持ちで選んだのですが、山登り経験者でもないのに、ずいぶん向こう見ずなことをしたものです。そこであんなに大変な目に会うとは、想像もしていませんでした……。

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