第6章 『青春を山に賭けて』の時代〔その1〕後編

 さて、1月7日、ブエノスアイレスに到着。まず第一の目的は、南米最高峰アコンカグア(6960メートル)の単独登頂である。

 何よりも単独登山の許可を得るのが厄介であることを植村は予知していた。ブエノスアイレスの日本大使館に駆けこみ、その斡旋に頼ることを彼は避けた。そこで反対されれば元も子もない、と考えた。アコンカグアは、アルゼンチンとチリの国境近くにあり、拠点となる町はメンドサである。彼はためらわずに汽車でメンドサへ行った。

 しかし、それからが大変だった。スペイン語が未熟だったということもある。それ以上に登山というものに理解がなく、警察へ行って単独登山をしたいというと、ロコ(バカ)扱いされた。すったもんだの交渉のすえ、アコンカグアは軍の管轄下にあり、軍の許可が必要だとわかる。軍の責任者に会うこともできず、警察と軍のあいだを小突きまわされるように行ったり来たりしている。

 最後に、軍の司令官は、植村の登山装備が貧弱すぎる、と指摘し、植村は必死で弁明につとめた。セータを取り出し、両袖に足を通して着てみせて、寒いときはこれが立派にズボンの役割をする、と大勢の見物人に笑われながらパントマイムを実演してみせた。