第6章 『青春を山に賭けて』の時代〔その1〕前編

 植村には、いつもどうしても実現したいことがある。それが、頭のなかに夢のように現われる。しかし、いっぽうで実行するには資金の手当てがいる。スキー場で働きながら、節約に節約を重ね、資金をためようとする。痛ましいほどの孤独がそこにはあるが、こまかい計算をした翌日には、ケロリと「きょうも快調だ」と短く書きつけたりする。目を見はらずにはいられない向日性とヴァイタリティがそこにはあった。

 もう一つ、手帳に書きとめた年頭の所感ともいうべきもののなかで、目にとまったことがある。

 この年の12月には、きっとフランスを去りたい。これ以上、フランスには住みつかない。日本へ帰って、一社会人として平凡にやってゆきたい。そう書いていることだ。

 植村は、66年にモンブランの単独登頂を果たし、マッターホルンにも登った。秋にはアフリカに渡り、ケニヤ山とキリマンジャロにも登頂している。切りつめた資金のなかで、ほんとに精一杯の行動だった。そういう行動で壁にぶつかると、彼は「これぐらいやらなければ、誰もオレを認めてくれないのだ」と叫ぶような言葉を手帳に書きつけることがたびたびあった。