惨たんたる旅のようすである。『北極圏一万二千キロ』の記述では、このあたりの行程は難儀ではあってもわりと淡々としているせいで、この手紙にあるようなギリギリの厳しさを感じさせないのだが、現地からの手紙は植村が立ちいたっている困難がじつになまなましく伝わってくる。この手紙は、典型的なその一例だろう。

 植村は過ぎてきた行程を思い出し、少し興奮しながら書いているようだ。文章に切れ目がなくなり、くりかえしが多くなる。彼がなにかに思いをこらしているとき、日記でも手紙でもそれが記述の特徴になった。

 ほんとうはもう2通、一万二千キロの旅の手紙を紹介したいと思ったのだが、紙数が尽きようとしている。それは別の機会にしよう。

 植村から私宛に長い手紙が来たのは、この時期が多かった。いわば手づくりの冒険の時期といってもいい。彼には手紙を書く必要があり、私にはそれを読んで何かしらなすべきことがあった。

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