「この子が、あなたが来る夢を見たのよ。」

 その子とは、一番仲良くなった同年代の友人の娘でした。その幼い子が、彼女が来るから村まで迎えにいこうと母親に頼んだというのです……。

 テレパシー、シンクロニシティ、集合的無意識……。その出来事をどうやったら説明できるのか、ぼくにはよく分かりません。
 でも、この話を聞いたとき、草原を駆けるさわやかな風のように、得も言われぬ開放感がからだを吹き抜けてゆきました。

 子供が夢をみた。
 それだけで、遠い距離を厭わず、いつ来るとも知れない友人の到着を待つことができる人々。そんな人々が、この世界のどこかに実在しているという事実。このエピソードに、ぼくは世界の多様な広がりを知り、人間の心のぬくもりを感じました。

 彼女が、その情景を語るときの身振りや手振り、話し方からは、心底驚いたという気持ちと、素朴な友人たちへの愛情が、ひしひしと伝わって来ました。

 この話は長い講演のなかの、ほんのひとつの出来事として語られたにすぎません。でも、その部分だけがいつまでも心にひっかかり、頭の中を何度も行ったり来たりして、それから後の話は失礼ながら、あまり記憶に残っていません。

 生き方や価値観はひとつじゃない。そんなふうに実感できるだけで、こんなにも心が豊かな気持ちになれるのは、なぜなのでしょうか。

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