特別番外編 「しんかい6500」、震源域に潜る
その3 震源の海底で、地震に遭う
「潜航を開始する」の連絡とともに沈み始める。水深20mまでの海では、塊になった粒が肉眼で見えるほどプランクトンが増殖しているのを観察した。日本海溝域でプランクトンの大増殖が起きるのは3-6月の春期のはず。8月になってまでこんな大増殖が見られるのは、やはり地震や津波によって沿岸から栄養塩が供給されたことによるのだろうか? 残念ながら専門家ではないので答えは分からない。しかし、ボクが初めて見る光景だった。
今日の潜航は水深3600mの海底である。片道1時間半の潜航は長い。潜航前に少しだけ飲んだ酔い止めクスリの影響もあって、いつの間にかボクはスヤスヤと眠りに落ちていた。ふと我に返って目を覚ますと、チバさんやイシカワさんも時折ウトウトしているようだ。みんなやはり特に緊張している風はない。
海底近くになって下降用の重りを捨て、ゆっくり海底に降りてゆく。普通なら海底からの高度10mぐらいで見えてくる海底がなかなか見えない。高度2mくらいまで近付いて、ようやく海底がクッキリ見えた。つまりそれだけ海底付近の海水が濁っているのだ。
「こりゃ今日の潜航は大変だ」
ボクはいきなり憂鬱になった。海底の濁りが強いと有人潜水の楽しさや調査効率は激減する。観察窓からはわずか数m先の海底しか見えないので、目標の微生物マットや断崖を見つけるのがとても困難になる。
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