第11回 葉っぱの芸術家たち

 この模様を描いたのはだれ?

 答えは「絵かき虫」と呼ばれる、葉に潜る小さな虫たち。大半が5ミリにも満たない蛾やハエの仲間の幼虫で、その食べた跡が芸術性の高い模様になったりする。わが家の庭で発見する新種の昆虫の多くは、そんな小さな芸術家たちだ。

 飼育や執筆などに追われ、家に引きこもりがちな日々は、わが家の庭が大切な研究フィールドになる。手入れをせずに放っておくと、風や鳥たちが種を運んできて、どんどんいろんな植物が生えてくる。そしてそこに、いろんな虫たちが集まってくる。

 ところが問題は大家さん。「できるだけ頻繁に庭師に手入れを頼むように! 原野みたいでみっともない」と、ぼくに会うたびに注文をつける。
 そのたびぼくは、「庭で新種の昆虫を見つけて研究しているから、そのままにしておかないといけないんです」と反論してきた。実際そうである。治安面の理由もある。外からは、庭師に手入れを頼めないほど貧しい家に見えるので、泥棒に入られにくい(実際に貧しいです)

 それなのに・・・。この春、日本への一時帰国から戻ってきたら、庭の草木がきれいさっぱり刈られていた。あれだけ言ったのに・・・。
 しかたがないので、一から庭を放置した。今は野イチゴも収穫できるほどの以前より立派な草ぼうぼう庭フィールドになってきた。

コハモグリガの一種の幼虫
Phyllocnistis drimiphaga
この幼虫がDrimys granadensis(シキミモドキ科)の葉に描いた迷路状の食痕(食べあと)が上の写真、作品その1だ。茶色い糞の線の幅は1ミリほど。
体長:6 mm 撮影地:セロ・デ・ラ・ムエルテ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
絵かき虫の作品その2。作者不明。絵かき虫は日本でも見つかるから、みなさんも葉の表や裏に描かれる芸術作品を探してみるのはどうだろう。『絵かき虫の生物学』(北隆館,環境ECO選書)という本も出版されています。
線の太さ:1mm 撮影地:カボ・ブランコ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html