第1回 ナショジオ=「米国地理学雑誌」?

 わりと初期、というのが正解のようだ。

「編集長が替わったのもあると思うんですが、要するに、売れなかったわけですよ。そこで、販売戦略を考え始めたと思います」

 いずれの世も同じ、ということか。売れずに方針転換する雑誌は世にあまたある。ナショジオもその例にもれず、しかし、方針転換後の成功は超弩級だったわけだ。

「もともと、ナショナル ジオグラフィック協会、つまり、同好会ですよね。200名あまりのメンバーだけのためにつくっていたわけですね。メンバーの会費をもとに出してるわけで、売れる・売れないとかいう問題ではなかったわけです。でも、編集長も替わって、これじゃ先行きいかんと、方向性を模索しはじめる。1890年代から1900年代にかけて表紙の色が変わるでしょう。赤からだんだん黄に近づいて、いったん赤にもどって、また黄色になってと、今の色に近づいていく。このあたり結構ふらつきつつも戦略がはっきりしてくる時期だと捉えています」

 ちなみに、1890年代中に、コダック社製の持ち運びしやすい簡易カメラが普及するとともに、コダック社との提携で誌面に写真を入れる動きも出てきたという。現在のナショジオのトーンはこのあたりですでに確立しつつあったのかもしれない。

 というわけで、なぜナショジオは今のようなナショジオなのか、という問題には、ある意味、あっけなくけりがついてしまった。

 では、もうひとつの疑問、「地理学とは?」が残る。そして、それについて考える中で、ぐるりと一周回って、またナショジオの「意味」を再考することになるのだった。

つづく

企画展「ナショジオの世界 米国で生まれた地理雑誌 120年の軌跡」
奈良大学図書館では2011年7月16日(土)から11月5日(土)まで「ナショジオの世界 米国で生まれた地理雑誌 120年の軌跡」と題した企画展を開催しています。展示では、バックナンバー(一部複製)はもとより、ユニークな分析データや、付録コーナーなど、雑誌の魅力や120年分の歴史などを独自の視点から紹介。詳細は奈良大学図書館ホームページをご覧ください。
http://library.nara-u.ac.jp/

堀信行(ほり のぶゆき)

1943年生まれ。奈良大学文学部地理学科教授。サンゴ礁をはじめ、アフリカなどの熱帯地域の環境地理学的な研究を行うとともに、風景論風土論も展開している。主な著書に『アフリカⅠ』(共著、朝倉書店)、『環境の人類誌』(共著、岩波書店)、『水の原風景―自然と心をつなぐもの』(共著、TOTO出版)、『熱い自然―サンゴ礁の環境誌』(責任編集、古今書院)、『風景の世界』(共著、二宮書店)などがある。


川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は学校の「いま」と家族、地域の「在り方」をリアルに描いた長編エンタテインメント『ギャングエイジ』(PHP研究所)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider