第19話 糞良く、落馬……

 実は私は、致命的なミスをしていたのだ。

 ここニュージーランドでの馬の乗り方は、イギリス式が主流なのだが、私の普段の乗り方は、カナダのカウボーイから教わったウエスタン式である。

 手綱での指示の出し方も、足を使っての指示も、まったく違うのに、そのことを、うっかりと忘れていたのだ。

 だから馬も、乗せている人間に違和感を覚えたのだろう(と言っても、なにも振り落とさなくてもいいじゃない。と思うのだけれど……)。

 次の朝、私はベッドから体を起こすこともできなかった。

 人間が起き上がるには、どれだけ首のスジを使っているのかが、よく分かった。

 まるで首の据わっていない赤ちゃんである。頭が地球の引力に負けて、転がり落ちそうになっていた。

 起き上がるために、髪の毛をつかんで、自分で自分の頭を持ち上げなければならないという、実に情けない事態だった。

 乗馬が人生というスージーは、そんな私にも容赦なく、「落馬した馬には、すぐ乗らなきゃダメよ! なめられっぱなしになるわよ!」と強く言った。

 でも、私は乗る気になれなかった。

 代わりに、とことん、その馬を引いて歩くことにした。

 馬と一緒に歩くことは、多くのことを感じさせてくれる。馬の精神状態や興味、体調など。

 何よりも、馬と自分との関係がどのようなものなのかが、はっきりと見えてくる。

 私はこの馬との信頼関係を築く前に、強引に鞍を付けて、またがってしまったのだ……。

「そろそろ、乗ってみれば?」とケイティーが言うので、スージーと共に、ニュージーランドの森の中へ出掛けることにした。

 再び不安が脳裏をよぎった。

 けれど私は、心を決めて、タテガミをつかんで背中に飛び乗ると、その瞬間、馬は私を落さないように後ろ足で踏ん張って、よろけるのを堪えてくれた。

「お! ありがとう」

 首筋を撫でてやると、片方の耳が私の方へ向いた。それは、あなたの指示を聞きますよ、というしぐさである。私たちは、広大な草原を抜けて、ニュージーランドの森の中に入って行った。

 そこは、ワラビやゼンマイが巨大化したような、高木状のシダ類が生い茂っていて、そもそもシダ類は、地上で最も古い植物であり、約三億年前から存在していることから、まるで恐竜でも出てきそうな雰囲気だった。

 太陽の木漏れ日が少しばかり届くだけで、うっすらと霧がかかり、とても幻想的だった。

 私は再び、その馬の首筋を撫でて言った。
「ありがとう。こんな世界を見せてくれて……」

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