第19話 糞良く、落馬……

 ここのところの彼女は、車の免許取得のことで、ビルとスージーと物別れをして、非常に態度の悪い毎日を送っていたのだ。

 ニュージーランドでは、十六歳になると、車の免許を取得できるのだが、日本のように、教習所に行ってみっちり勉強するというのではなく、親などの大人が、自家用車で教えてから、免許センターで簡単な筆記テストを行うという仕組みになっている。

 だから、誰かがケイティーに教えなければならないのだが、ビルもスージーも面倒くさがって、結局、私がその役まわりを押しつけられてしまったのだ。

 ケイティーの運転は、かなり恐ろしい……。

 教習所でしっかり基本を教わったワケではないので、見よう見まね的な運転なのである。しかも、いきなり公道で練習をする。

「死ぬ準備は、できてる?」と、いつも脂汗が出るような冗談を言う彼女は、運動神経も頭も悪くないけれど、ふと、足元を見ると、アクセルを右足、ブレーキを左足で踏んでいるのだ。

 これだと急ブレーキの時に、慌てて両足で踏ん張ってしまって、アクセルもブレーキも一緒に踏んでしまう危険性がある。

 私は、その癖を直すように口酸っぱく言ったのだけれど、実は、驚くことに、ニュージーランドには同じような人が多く、スージーもまた同じだったのだ。

 親が子に教える仕組みが、親の悪い癖まで伝えてしまっているのだった。

 何度言っても、「みんな、やっているよ」と言うばかりのケイティーに呆れて、「こんな恐ろしい運転には、もう同乗できん!」と、放棄していたせいもあって、彼女の嘲笑の声が高々と響き渡っていたのだ。

 ところがケイティーは、部屋から出てきて、私を振り落としてからも、まだ暴れてバッキッング(ロデオみたいに後ろ足で蹴ることね)している馬を取り押さえてくれた。

 そして、彼女は言った。
「落馬の後は、すぐ乗らないとダメだよ」

 でも私は、首が痛いし、頭を打って、ぼんやりとしているし……。

 そんな私を見かねて、ケイティーはすぐさま、その馬に飛び乗った。そして、暴れる馬を操った。

 彼女の車の運転は、ハンドルの切りも甘く、車庫入れもできない。ウインカーも出さずに角を曲がって、しかも、大回りして対向車ギリギリに曲がる。
 命がいくつあっても足りないくらいに恐ろしく、最悪な運転をするのだけれど、乗馬に関しては、かなりの腕前だった。

 背筋が伸びて、綺麗な乗り方もする。

 ケイティーが馬の背中に乗った瞬間、馬は一瞬にして大人しくなった。
 その馬が、彼女を信頼して尊重した瞬間だった。
「やるな~」私は、感心した。