遠出の調査もなく、日々、自宅の裏庭に生える植物に目を向けていたある日のこと。勢いよく育つシダの一種の葉のあちらこちらに、白い線があるのを見つけた。

 「なんやろうなぁ?」

 白い線の端には、茶色い蓋の付いた1ミリほどの穴がある。葉を裏返すと、なんとその穴のそばに高さ5ミリほどの白い棒が垂直に立っていて、棒の先からクモの糸のようなものがテントみたいに張り巡らされているではないか!(上の写真:葉を裏返して横から見たところ)

 「なんじゃこりゃ!」

 さらによく見ると、棒の付け根から穴のあたりに、体長5ミリほどの白い幼虫が待機している。テントはこの幼虫が造ったようだ。白い線が付いている葉をどんどん裏返してみると、その全てにテントが張られている。

 「なんのために?」

 試しにテントを軽く触ってみた。すると幼虫はシャシャッとバックし、おしりから穴を通り抜け、葉の表に出てきた。そしてまた裏のテントの方へ戻っていった。どうやらテントは、外敵の到来を感知する役割を果たしているようだ。

 実際にアシナガバチが襲ってきたときも、この幼虫はまるでハチをからかうかのように葉の表裏を出入りしていた(下の動画をぜひご覧ください)。

 飼育してみると、この幼虫はニセマイコガの一種と判明したが、専門家によると、こんな大掛かりな仕掛けを造って逃げ隠れする種は、これまでに報告されていないということだ。新種の可能性が高い。不思議なことに、このシダの種はどうも外来種のようで、もともとコスタリカには生えていなかった。


Polybiaというアシナガバチが、ニセマイコガの幼虫を捕獲しようと、必死になっているが、幼虫は葉に開けた穴を上手に出入りして、ハチの攻撃をかわす。「なるほどぉ、テントがセンサーとしてちゃんと機能している! いやぁ、それにしても、ハチも賢いもんや~」
撮影地: 自宅の裏庭、サンイシドロ・デ・コロナド、コスタリカ

西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html

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