第2章 1888-1900 ゆりかごの時代

第12回 激突

  名物雑誌編集者であるサミュエル・S・マクルーアの後ろ盾を得て、執行委員会が勢いづいていた頃のこと。ある朝、ギルバート・グロブナーはグラハム・ベルの自宅に呼ばれ、こんな質問を受けました。

「君はいったいどんなトラブルに巻き込まれているんだい?」
 ベルは明らかに腹立たしげです。
「トラブル?」
 グロブナーにはまったく心当たりがありません。

「グロブナー氏の品行にかかわる深刻な問題について相談したい、と執行委員会の委員長が言ってきたんだが」
 グロブナーにもベルにも、このときは執行委員会が何を言おうとしているのか想像もおよびませんでした。

 さて、その日の午後になって、ベルはふたたびグロブナーを自宅に呼びました。

「委員長が何を言うのかと思ったら、グロブナー氏の関心が『ナショナル ジオグラフィック』よりも娘のほうに向いている。それを委員長から私に伝えるべきだ、と執行委員会が考えたって言うんだよ! わっはっはっ」

   ベルが大声で笑ったことからもわかるように、グロブナーとエルシーの交際に、ベル夫妻は反対ではありませんでした。しかし、最終的にどうするかは当人同士が決めること。その意味では、ベル夫妻、特にメイベル夫人は「あの子の淡々とした様子から見て、あの子が彼を愛しているとは考えられません」と、脈ありとは見ていませんでした。

 事態が動いたのは、ベル夫妻がヨーロッパへ向けて旅立つ1900年6月30日の前後でした。