第2回 世界最高の性能を誇るすばる望遠鏡

「鏡の形を制御するときに電流を流すんですけど、事故で過剰な電流が流れてしまって。電極が鏡の裏に付いてるんですが、そのかなりの部分に大電流が流れて、文字どおり焦げちゃったんですね。これはもう直せないということで、急遽、途中まで作ってあったバックアップを利用して、9カ月ぐらいで復旧したんですが──」

 既製品があるわけではなく、高度な観測を実現するためのR&D(研究開発活動)を行い、研究に投入する最先端の観測所ならではのエピソードだ。

 コロナグラフと補償光学装置、これらを組み合わせることで、主星を隠して周囲の惑星をさがすことができるようになる。

 ちなみに、現行のコロナグラフHiCIAOは、大きな主鏡を持つ望遠鏡に取り付けるものとしては、小さな印象の「箱」だ。前代のコロナグラフCIAOは、もっと大きかったそうで、性能の向上も小型化も(実は低価格化も)同時に実現したすぐれものである。

 ぼくにとって非常に印象深かったのは、こういった観測装置の更新によって、既存の大型望遠鏡もどんどん進化するという点だ。すばる望遠鏡自体の運用が開始したのが1999年。すでに12年目で干支が一回りしているわけだが、観測性能は随時アップしている。これは、アメリカのパロマー天文台の5メートル級望遠鏡が、初観測から60年以上たった今も現役であることを考えると全く不思議ではない。すばる望遠鏡は、まだまだ進化する。

つづく

田村元秀(たむら もとひで)

1959年、奈良県生まれ。国立天文台太陽系外惑星探査プロジェクト室長。主な研究分野は、赤外線天文学、星・惑星系形成、系外惑星探査、宇宙磁場の観測的研究と装置開発。現在は新しい系外惑星・円盤撮像用カメラHiCIAO(ハイチャオ)による観測や、スペース系外惑星探査ミッションの検討を進めている。『NHKサイエンスZERO 地球外生命体を探せ』(共著、NHK出版)、『宇宙は「地球」であふれている -見えてきた系外惑星の素顔-』(共著、技術評論社)などの著書がある。


川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は学校の「いま」と家族、地域の「在り方」をリアルに描いた長編エンタテインメント『ギャングエイジ』(PHP研究所)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider