第2回 キングウイリアム島――地図のない世界

キャンプ中にオオカミが現れ、私のスキーやソリを持っていこうとした
(撮影:角幡唯介)

 キングウイリアム島の平らな大地を歩きながら、私はフランクリン隊の生き残りが重いソリを引きながら南を目指した、その風景に思いをはせた。私がこの島に上陸したのは2011年4月30日、フランクリン隊の105人が船を捨てて上陸したのは1847年4月25日。164年の歳月を経て、私たちはフランクリン隊の男たちと同じ季節に同じ場所に立ち、同じように南を目指した。

 長い歳月が経過してはいるものの、そこで見た景色は、フランクリン隊の男たちが見た景色と、ほとんど何も変わらなかったはずだ。氷った海には乱氷が積みあがり、島は平らで、固い雪に覆われていた。振り向くと後ろにはソリのランナーがつけたまっすぐな跡が地平線の彼方にまで続いていた。風は強かったが、春になり、気温が上がってきたため、今までみたいに氷点下30度まで下がることはなくなっていた。ジャコウウシが現れ、毛の白いオオカミが私のソリを引っ張って、もっていこうとした。

 フランクリンの男たちも同じ白い大地を前に進み、同じような風の中を、同じ動物たちに囲まれながら歩いたのだろう。

 重いソリを引きながら、私はそう思おうとした。だが、同じ景色の中にいるのに、私はどうしてもフランクリンの男たちが歩いた風景と自分とを同化させることができなかった。自分と彼らの間に存在する、決して縮めることのできない隔たりから、目をそらすことができなかったのだ。