第2回 キングウイリアム島――地図のない世界

フェリックス岬には船舶に航路を表示する鉄塔が建っていた
(撮影:角幡唯介)

 空は曇っていて視界が悪く、東から冷たい風が吹いていた。潮の影響で乗り上げた海氷が、島の海岸線に黒く影を作っている。その乱氷の向こうに、ピンクの細い棒のような人工物が立っていることに気がついた。先頭を歩いていた荻田は、それがフェリックス岬に立つ何かの目印だと確信したらしく、少なくてもまだ重さ40キロはある大きなソリを引いているにもかかわらず、大学ラグビー部員のような力強さで私を引き離しにかかった。

 私には彼の気持ちがよく分かった。なにせレゾリュートベイを出発して最初の目的地であるジョアヘブンの村は、このどこまでも平らなキングウイリアム島の南にあるのだ。毎日5000キロカロリー以上の食事をとっていたにもかかわらず、過酷な運動と氷点下30度前後の低温環境下にすでに45日間ほど滞在していたため、私たちの体は衰弱し、やせ細り、夕食を食べ終わった瞬間に腹が減ったと叫ぶ始末であった。

 キングウイリアム島に上陸するということは、私たちにとっては目的地に到着するというよりも、地元資本の大きなスーパーマーケットで買い物ができるということを意味していた。そこに行けば、サラミや甘いクッキーやパン、バターなどがふんだんに手に入り、長かった飢餓状態から脱出できるのである。フルーツやジャムまであるのだ。

 そこに到着するまで、おそらくあと2週間ほどだろう。その期間を何とかしのげばいいことを、私たちは知っていた。