最後に鬼頭氏に聞いてみた。日本人が明るい未来を描き、出生率を増加に転じさせるために、今、足りないものは何ですか?

「長い歴史の中で、日本は食料をどうするか、エネルギーをどうするか、豊かになるために産業をどうするかを探ってきた。そしてときには中国やヨーロッパの技術や社会システムを取り込みながら、それをアレンジして日本ならではの新しいシステムを作ってきたと言えます。ただし、戦後、短期間で急速な発展を遂げた現代は、技術にしても、社会システムにしても多くを海外から取り込んだものの、まだ十分に日本的なものにアレンジされていないものも多い。家族制度の変化などはその最たるものです。この不安定な空気が、少子化の加速を生んでいるとも言える」

 そこで必要になるのが、幸福感だ。それもGDPなどの経済的な価値ではない、「幸福の新しい価値観」を持つことだと鬼頭氏は言う。

「暮らしの豊かさを追求していけばいい。簡単に言えば、人間らしく生きるということですね。どんなに今から人口を増やすムードが広がったとしても、現在の出生率から考えると2050年頃までは、人口が減少していくことは仕方ない。高齢化がますます進み、労働力不足などによる、さまざまな弊害も生まれてくるでしょう。でも、幸福とは何かという発想を転換して、子供を産みたい社会を実現すれば、その後は合理的に社会が回っていく、落ち着いた日本が待っているはずです」

 多くの日本人に未来を悲観させた東日本大震災も、実は価値観の転換のきっかけになりうるというのが、鬼頭氏の考えだ。

「原発事故によって、エネルギーと自分の暮らしとをあらためて考えた人も多いでしょう。また新しいエネルギーの可能性も、国民を挙げて模索しています。これをきっかけに、自然と共存しながら、そこそこ豊かになればそれでいいんじゃないかという、新しい幸福の価値観に気づいた日本人も多いのです」

2011年。「第5」と言える、日本の人口曲線の山が、ここから始まるかもしれない。

おわり

次回は、行動生態学者の長谷川眞理子さん「こんなに異常な『ヒト』の行動 」

鬼頭宏(きとう ひろし)

1947年生まれ。上智大学経済学部教授。専攻は日本経済史、歴史人口学。「宗門人別改帳」などの史料をもとに、縄文時代から江戸時代までの人口推移をあらためて明らかにした。著書に「人口から読む日本の歴史」「文明としての江戸システム」(ともに講談社学術文庫)、4月には「2100年、人口3分の1の日本」(メディアファクトリー)も刊行。


福光 恵(ふくみつ めぐみ)

1960年東京都生まれ。美術業界で働いたのち、フリーライターに。日経新聞プラス1「コトバの鏡」、アスキードットPC「自腹で大人買い」などの連載あり。

この連載の前回の
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