第8回 甘いオシッコに集まってくるのは?

エンコフォラ・サンギネア(カメムシ目:ビワハゴロモ科)
Enchophora sanguinea
お尻の先にある細いシャモジかハケのような器官を使って、空中へ勢いよく甘露オシッコを弾きとばす。カメラのフラッシュのマルチ発光機能を使って撮影。オシッコの粒の大きさは1ミリほど。(写真クリックで拡大)
体長:25 mm  撮影地:プエルト・ビエホ・デ・サラピキ、コスタリカ
撮影者:Piotr Naskrecki, http://naskrecki.com/

 カリブ海側のコスタリカの低地熱帯ジャングルは、ムシムシと暑い。気温は30℃を超え、湿度も100%近い。
 暑い所が苦手なぼくは、あまり向かわない場所だが、数年前、ハーバード大学のキリギリス類の専門家で、写真家でもあるピーター・ナスクレンスキー博士とそんなジャングルを訪れたことがある。夜中にキリギリスの採集にでかけたのだ。

 そこで、ぼくたちはビワハゴロモを見つけた。
「ケンジ、知ってるかい? ゴキブリがこいつらの体についた白いワックスをかじりにくるんだよ」
「ふーん。ビワハゴロモの後ろに蛾がおるのは、なんで?」
「それは単なる偶然さ」
 ぼくはなんか面白いことが起こっているのではと感じ、じっとその現場を見つめた。
「ピーター、やっぱり蛾は何かやってるで~」

 そう。その蛾はビワハゴロモが排泄する甘露オシッコを飲んでいたのである。ストローのような口をのばし、宙を飛ぶオシッコの粒をキャッチしたり、触角でビワハゴロモの翅をちょんちょんと軽く叩き、オシッコをねだったりしていた。

 あとでわかったのだが、このオシッコが好きなのは蛾だけではなった。アリやカタツムリまで集まってきて、ビワハゴロモの“おこぼれ”にあずかるのだった(下の写真)。ビワハゴロモにとっては、背後に誰かがいてくれることによって、より安全ということだろう。

 未知なる昆虫たちの世界が限りなく広がる熱帯のジャングルでは、こんな世界初の発見はそれほど珍しくはない。

(この回の内容に関する詳しい情報を知りたい方は、論文でどうぞ。Naskrecki, P. and K. Nishida. 2007. Novel trophobiotic interactions in lantern bugs (Insecta: Auchenorrhyncha: Fulgoridae). Journal of Natural History 41(37–40): 2397–2402)

ビワハゴロモとカタツムリとアリ
Enchophora sanguinea, Euglandina aurantiaca, and Paraponera clavata
カタツムリもアリも、ビワハゴロモのオシッコが目当て。偶然そこにいるわけではない。カタツムリが甘いオシッコを体でキャッチ。そして大きなネッタイオオアリ(弾丸アリ)はカタツムリについた甘いオシッコをちょうだいする。(写真クリックで拡大)
それぞれの体長:25 mm(ビワハゴロモ), 30 mm(カタツムリ), 22 mm(アリ)
撮影地:プエルト・ビエホ・デ・サラピキ、コスタリカ
撮影者:Piotr Naskrecki, http://naskrecki.com/
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html