第13話 ブランド

 とりあえず二頭を馬房に入れて、獣医が来るのを待った。

 来たのは、女の獣医さんで、液体窒素を持ってきた。

「よかった……。火をおこして、鉄を真っ赤に焼かなくてもいいんだね~」

 彼女も、今どきそんなことするわけがないでしょう? という顔をして、
「危ないからね。液体が手に付いただけでも、大やけどするわよ」と言った。

 厳重に鍵がかけられている容器を開けると、ドライアイスが出すような白いけむりが出てきた。

 液体の中に、鉄印を入れてキンキンに冷やす。

 まずは、比較的大人しいシンコーから行うことにした。ブランドを入れる肩の部分の毛が剃られる。

 それから、刻印の記号や番号を確認すると、暴れないように馬体を押さえて、そのキンキンを肩に押しつけた。

 シンコーは少し驚きながら皮膚をプルプルと痙攣させていたが、さほど痛くない様子で、すぐにも終わった。

 鉄印を皮膚から離した瞬間、皮膚が真っ白く凍っているのが見えた。

 凍傷の跡からは、もう毛が生えてこないので、これで一生、このブランドを背負っていくことになる。

 両肩におされたブランドは、なんだかかっこ良かった。これからは競走馬として、生きていく覚悟のしるしである。

 まるで――、
「この、両肩の桜吹雪と昇り龍を背負ったからにゃ~、命を張って生きていく覚悟よ!」みたいである。

 命を張っての、全国名湯温泉に入れない覚悟になるわけだから、それは、相当な覚悟である。

 私は子供の頃、腕に「聖子ちゃん命」と日焼けでつけた高校球児を見たことがあるが、これも、なかなかの覚悟だ。青春をかけている。

 ニーナの番になると、少しぐずった。神経質な性格なので、何をされるのか察しがついたのだろう。
 イヤイヤして、後足で立ち上がって、リードロープを持つ手を振り切ろうとした。

 女の獣医は慣れているようで、私に、ニーナの前足を曲げて持っているようにと指示した。
 そうすると、ニーナは三本足で立っていなくてはならず、暴れることができない。

 その間に、さっとキンキンを肩に押しつけて一丁上がり。反対側も、同じく三本足で立たせて、一丁上がりで、ぱっぱと終わった。

 さすが女獣医。
 液体窒素の容器に、また厳重に鍵をかけて颯爽と去っていった。