第1回 ランカスター海峡――神話となった北西航路探検

 ロスの探検の後に判明した事実であるが、彼が到達したランカスター海峡こそ実は幻の北西航路の入り口だった。長い歴史をもつ世界史的なスケールの謎を解決する鍵と、それがもたらす名声をほとんど手中にしていながら、ロスはそこでとんでもないヘマをしでかした。ランカスター海峡の入り口から約80マイルほど先に船を進めたところで、霧が晴れたわずかな間に、ありもしない陸地の影を見たというのだ。

「10分間だけ完全に霧が晴れた」とロスは報告した。
「ちょうど海峡の一番奥のあたりに私ははっきりと陸地の存在を確認した。それはひと続きの山並みを形成しており、北側と南側に連なっていた」

 ロスはこの山脈をクロッカー山と呼び、ランカスター海峡が行き止まりで北西航路にはつながらない証拠だと考えた。この海峡をいくら進んでも北米大陸を回り込むことはできないと報告したのである。

 だがロス以外の隊員の中で、クロッカー山の存在を確認した人間はいなかった。ロスがなぜこんな誤認を犯したのかは今もって不明である。彼には何か意図があったのかもしれないし、あるいは私たちが乱氷帯のはるか先で見渡したのと同じような巨大な氷山が、海流にのって延々と東に流され、ランカスター海峡の入り口にまで達した可能性もある。
 いずれにしても、そこにはロスにしか見えないクロッカー山があり、彼はそれを見たせいで、それまで築き上げてきた名声を失い、二度と海軍が主催する探検に参加できなくなった。