第1回 ランカスター海峡――神話となった北西航路探検

バロウ海峡の乱氷帯。丘に登ると、戦艦みたいに大きなテーブル状の氷山がはるか向こうに見えた。
(撮影:角幡唯介)

 ランカスター海峡からバロウ海峡へと続く海氷は、まったくひどいことになっていた。

 北極海から流れてきた氷が、海流の力で押し合い、乱雑に積み重なり、無残な光景を作り出していたのだ。倒壊したビルディングの残骸のような巨大な氷が、不自然なかたちで他の氷の上に乗っかっているのを見て、私はうんざりした。ひとつひとつの重さが何十トン、何百トンに達するのか想像もつかないが、そうした氷が山のように積みあがって左右の光景の中にいくつも突き出しているのだ。

 これが観光旅行なら、感嘆のひとつでも漏らし写真を撮った後、車に乗って国道を南にホテルまで戻ればいいのだろうが、残念ながら、私たちはこれからこの冗談みたいな乱氷帯を突破しなければならなかった。

 私と北極冒険家の荻田泰永の二人が、カナダ北極圏にある北緯74度40分の村レゾリュートベイを出発したのは、2011年3月16日のことだった。
 今から160年ほど前の19世紀中頃、イギリスのジョン・フランクリンを隊長とする探検隊が、この氷だけが支配する極北カナダの広大な多島海のどこかで忽然と行方を絶った。129人全員の消息が分からなくなったのだ。彼らが目指していたのはヨーロッパとアジアを結ぶ幻の北西航路だった。

 私はこの旅で、その凍てつく北西航路を自分の足でたどり、その生の風景を体験し記述することによって、フランクリン隊の男たちが生き延びようとした神話じみた舞台を蘇らせようと考えていた。