「グッドラック。よい旅を」と別れの挨拶をして、二人がバスを去った後、ケースの中を開けてみると……入っていたのは、試験管のミニチュアのような細長いガラスの瓶でした。その中に黄色い液体がさも大事そうに入っています。開けるまえからかすかに香りが漂ってきました。ふたを開けると、むせかえるような強い花の匂いがしました。

 それは、ブルガリア特産のローズ・オイルだったのです。

〈アメリカにやってきて、東欧の惚れ薬を手に入れるなんて……〉

 ぼくはそのケースをにぎりしめて、旅がもたらす、予測もつかない出会いの偶然を、楽しく感じていました。

 バラの香りが、華やかな気分にさせてくれたのかもしれません。

 この先いったい何が待っているのか、そんなこと、いくら考えたところで何の意味もないような気がしました。

 車窓のはるか遠くに、海のように広いスペリオル湖が見えました。

 いよいよダルースがすぐそこに近づいていました。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」

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