第2話  JAMSTECへの道 前編

その3  国際ワークショップで撃沈

こんな印象的な光景が、心が静まる海が、目の前に拡がる研究所、JAMSTEC。イイ所だな、ここは。このJAMSTECが、これから日本の深海微生物研究の中心になるんだろうな。あーあ、しょせんボクなんて・・・・・・。

やや自暴自棄的な感傷に浸食されながらそう思ったボクの中に、しかし突然、何かアツい、マグマのような、感情が湧き上がってきた。なぜ突然そんな都合良く気持ちが切り替わるのか、自分でもよく分からない。でも、ボクは自分の負けをしっかりと噛み締めたとき、不思議と立ち向かう元気と勇気が、カラダの奥底からフツフツと湧いてくることを何度も経験していた。今度もそうだった。

「見てろよ、お前ら(←誰?)。今は、誰も注目しないカスみたいな大学院生にすぎないけれど、今日この場にいたJAMSTECの、日本の、そして世界の研究者をあっと言わせる研究をしてやる。絶対、お前ら(←誰?)をギャフンと言わせてやる」

JAMSTECの岸壁の前に拡がる美しい印象的な光景を前に、ボクは強くそう思ったんだ。初めてJAMSTECという正体不明の研究所を訪ねて、凄い研究環境と設備が揃ったズルい研究所であることを見せつけられたこと、初めて世界の一流研究者が集まる国際集会に参加し雰囲気を肌で感じられたこと、留学先の先生と初めて話すことができてビビリまくったこと、自分の研究が世界に通じるという根拠のない強い自信とダメダメっぷりを同時に感じたこと、そしてなぜか、絶対やってやるという断固たる決意が芽生えたこと。それが、ボクがこの夏の日のことを今でも鮮明に覚えている理由だった。そして、これがJAMSTECとの2回目の交わりだった。

つづく(次回、アメリカで24時間戦う)



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高井 研

高井 研(たかい けん)

1969年京都府生まれ。京都大学農学部の水産学科で微生物の研究を始め、1997年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者に。現在は、同機構、深海・地殻内生物圏研究プログラムのディレクターおよび、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットリーダー。2012年9月よりJAXA宇宙科学研究所客員教授を兼任。著書に『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)など。本誌2011年2月号「人物ファイル」にも登場した。