第11話 奇妙な講座開始

 馬にとって、人間は変な生き物である。そもそも人間は、走るための前足で箸を持ってご飯を食べているのだから、人間の手の動きというのは、馬にとっては、奇妙なものだ。

 馬の頭の先に、手をかざしただけで、慣れていない馬などは嫌がるし、驚いたりもする。

 それに、人間は突然、会話の途中で、「え! マジ!」などと言って、大声を出したり、話しの途中で、いきなり手を叩いて同調したり、手を振ったり、くしゃみをしたり。

 子供などは、突然走るし、ちょこまかとするし、ジャンプしたり、奇声を発したりと、人間のしぐさというのは、馬にとって、びっくりする要因ばかりを持っている。

 以前、森の中で乗っていた馬が、道路に出て横断する際に、中央分離線の白線が怖くてまたげずに、道路のど真ん中で立ち往生したことがある。車が来たら、とても危ない状況だった。

 中には、人間が使うホウキやチリトリ、ゴミ袋などが怖くて、あわあわと落ち着かなくなる馬もいる。

 馬の近くで、餌袋を結んでいた厩務員が、カサカサと音を立てただけで、馬が怯えて、蹴られそうになった。

 これは全て、その馬の学習不足、経験不足である。私の馬の師匠、カウボーイのアルバートは、いつも言っていた。

「安全であることを知らないのは、馬にとって不幸だ」

 それが危険ではないことを、一つでも多く知っている方が、馬のストレスを軽減し、心の安定を保つのにもいい。

 子馬たちは体に触れられると、まだ、ぶるるっと敏感に皮膚を震えさせる。気を許していない証拠なのだろう。

 私はとことんスキンシップを図ることにして、頭、鼻先、足も腹も尻も、ありとあらゆる場所を手で撫でてやった。

「おー、よしよし。おー、よしよし」

 ここで、再びムツゴロウ式が、大活躍なのである。

 神経質なニーナもまた、餌袋やゴミ袋のガサガサという音が嫌いなようだった。そんな時は、その袋を丸めてブラシに見立てて体を撫でてやる。

 すると、そのあと、餌袋が転がっていたり、風に吹かれて音を立てていたりしても、驚くことがなくなった。

 それから毎朝、私は必ず子馬たちに話しかけた。大声で呼びかけたり、歌って躍ったり。

 とにかく、多少のことでは動じない、太い心を作るために。

 だから、いっぱい、学んでちょうだいね。

つづく
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